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ドルで換算すると、日本の大企業の配当の大部分は株当たり10セント以下という、アメリカでは一番下のレンジに収まってしまう。
つまり、わが国の株式は時価発行への移行後も、その優先株的な基本性格をほとんど変えていなかったのである。
こうした「安定配当」、I額面発行増資」を二大特色とする株式制度のベースになったのは、国家総動員体制の一環として戦時中に確立された利潤追求の抑制、株主権の制限や配当規制、銀行借入中心の企業金融、メインバンク制、労使協調型生産体制などの一連の金融・資本統制の枠組みであった(注2)。
それが戦後零細な国民の貯蓄を動員するための仕組みとして、そのまま平時の経済に持ち込まれたものである。
この結果、1970年代半ばまでは、配当に対する強いコミットメントによって普通株式は擬似確定利付証券化され、それと成長にともなう頻繁な額面発行増資への優先払込権が組み合わさる形での株価形成が定着した。
そこで額面発行時代の株価形成のロジックを、表243に示すような単純化した例にもとづいて整理してみよう。
まず、安定配当の下限が10%に定められた根拠は、資本の主要な提供者であった金融機関大株主が株式を安定保有し、増資に常に応じる最低の条件として、貸出実効利回りを下回らない運用利回りを要求したからにほかならない。
このことは特に、資産運用利回りによって経営を問われる生保や信託銀行によって強調された。
これらの金融機関の高度成長時代までの資産運用の中心は中長期貸付であり、実質的な貸出利回りは10%程度になっていたと考えられる。
このため、増資の払込金額50円に対して10%の配当利回りが、株式を安定保有するための最低の条件であった。
これらの安定株主は市場で頻繁に株式を売買してキャピタルゲインを求めない株主であったから、配当が事実上、毎期の投資リターンの中心であった。
メインパンクとしての銀行は、生保や信託ほどには株式ポートフォリオ自体のリターンを問われてきたわけではない。
しかし、資本の95%以上を預金という短期の確定利付債務に依存していた銀行にとって、株式投資の元本を簿価でとらえ、10%の配当が安定的に得られる枠組みは、株式を疑似確定利付証券として位置づけられたという意味で、好都合であった。
これら安定株主にとって、50円払い込み5円安定配当の株式の投資価値はいくらになるであろうか。
表243に示した例では、大手金融機関にとっての機会コスト(必要最低リターン)は10%と想定しており、そのもとで永久に5円の配当を受け取る投資に相当するから、毎期のクーポンが5円の永久債と同じフレームワークで評価すればよい。
その理論価格は50円で、ちょうど額面に等しくなる。
これが安定配当10%というルールのよりどころである。
機会コストが10%より低い投資家にとっては、同じ投資機会の理論価格は額面より高いものになることは、いうまでもない。
例えば他の投資機会が乏しし機会コストである1年もの定期預金金利が5%の投資家にとっては、毎年5円の配当を永久にもたらす金融資産の理論価値は100円に相当する。
当時、銀行預金や郵貯のほかにほとんど投資の機会を持たなかった個人投資家にとっては、株式は比較的少額の投資が可能で流動性も高く、額面に対して10%以上の配当という高いリターンがほぼ約束されていたという意味で、額面をかなり上回る価値を持っていたのである。
もちろん、株式は契約上配当が保証されているわけではなく、減配もありうる。
しかし、額面発行時代の安定配当維持は経営陣の信任を問われるほどのコミットメントであったこと、減配しでも業績が回復すれば速やかに元の水準に戻る傾向が強かったこと、創立記念などで一時的に記念配当や特別配当の形で増配もありえたことから、平均すれば配当はかなり安定しており、優先株的な↑生干告が強かったといえよう。
2、2EVAの計算方法。
以上はあくまでも1株についての投資評価を考えたものだが、額面発行のもう1つのゲームのルールは、増資に際しては既存の株主に額面またはそれ以下の払込価格で、優先募入を認めることであった。
そこで対1の額面増資がある場合の投資採算を考えてみよう。
機会コストが10%の投資家の場合5円安定配当株の理論価格は50円であったから、新たに1株当たり50円払込、5円安定配当が期待される新規増資の理論価値もまた50円と、中立的である。
しかし、機会コストが5%の投資家にとっては、市場価値が100円の金融資産をもうー単位、50円払込で取得できることになる。
こうした投資家にとっては新規増資に50円で募集できる権利は、50円のプレミアムを持つことになる。
この結果、割引率5%の投資家にとっては、いわゆる増資払込権利付最終価格(権利落ちになる直前の理論株価)は、150円になる。
つまり権利落ち後の理論株価が100円ならば、増資払込権付で、150円払って旧株を取得すればトントンになる(注3)。
この結果、額面発行、安定配当という条件のついた普通株の本質は、額面による優先募入オプション(増資のたびに行使価格50円で新株を取得できるワラント)のついた、疑似確定利付証券ととらえることができる。
図242はそうした証券の市場における価格形成の典型的な例である。
つまり、平常はもっぱら疑似債を「、追加の株取得に必要な権利の数をN、払込価格をSとすれば、C(N・S)。
確定利付証券価値が、主として金利との裁定でつくことになる。
そして増資が具体化するやいなや、優先募入オプションの市場価値がつけ加わることになる。
そして、満期日(オプションの行使日)には、理論的な権利付最終価格が一義的に決まるo翌日には権利が落ちて、再び疑似確定利付証券としての価値に戻るのであるOわが国の株式流通市場の大きな特色は、持株比率の高いリレーションシップの投資家は安定保有を大前提とし、保有シェアの低い個人投資家中心に株価が形成されてきたことである。
したがって、大手銀行などにとっては50円しか価値を持たない株式も、実際に市場で株価をつける個人投資家にとっては100円の価値があり、また増資は大きな株価上昇要因であった。
ここで重要なことは、優良企業の株価がほとんど額面を上回り、額面増資に応じることが常に株主の利益になる仕組みになっていたことである。
ここで、額面発行時代の平均株価が100円前後ではなく、200300円のレンジにあった背景を考えてみよう。
1つの可能性は平均配当率が10%より高かったことである。
もう1つの可能性は、株価形成の主力であった個人投資家の必要収益率が、5%よりさらに低かったことである。
例えば必要収益率が3%の投資家にとって、毎年5円のキャッシュフローが永続する金融資産の理論価格は167円となる。
しかし、当時の投資家の聞で最も重要視されたのは、東邦銀行の例のように、複数回の増資期待である。
上述の例の場合1回の倍額増資(旧株1株に対し新株1株を割り当て)は、50円のプレミアムを生む。
とすれば増資期待が複数回織り込まれれば、理論株価は150円よりさらに高いものになる。
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